BRACK☆JACK~本章~
「ちょっと、なんなのよアンタ、早く車出してよっ!!」
日本語で怒鳴っても、運転手はきょとんとして肩をすくめるだけ。
だがあいにく、こちとら日本語しか話せないのだ。
「だァからっ! …あ、そうだ」
ミサトはナップザックの中をごそごそとかき回し、紙幣を4・5枚、運転手に渡す。
すると、運転手は心なしか嬉しそうな顔を見せ、やっとタクシーを走らせた。
「ったく…始めからこうしときゃよかったわ」
座席に深く沈みこみ、ミサトは、はぁ~っとため息をつく。
チップなんて習慣、ない国に生まれてホントに良かった、とかブツブツ呟きながら。
エアポートから10分も車を走らせると、窓の外の光景はガラリと変わる。
整然としていて吸殻ひとつ落ちていない表通りから一歩奥に入ると、まるで正反対の雑然とした世界が広がる。
この街ほど表と裏がはっきり分かれている場所はないんじゃないか、とミサトは思った。