ふたり輝くとき
サラは涙でぼやける視界と朦朧とした意識の中、アンナの姿を認める。

「これは、アンナ様」
「離れなさいと言っているでしょう。サラはユベールの正室ですよ。貴方が気安く触れていいものではありません」

サラは強い吐き気が迫ってくるのを感じた。

この人は今、確かにサラを“道具(モノ)”と言ったのだ。

「そのユベールのせいで泣いているようだから、俺が慰めていたのですよ」
「サラ、素晴らしいわ。こんな強い力を持っていたなんて……予想以上ね」

ロランの言葉を無視して、アンナは猫撫で声でサラに近づいてきた。

「さぁ、立てる?ユベールのもとへ行きましょう」
「アンナ様、それは見過ごせませんね」

サラの手を取ったアンナと、それを睨みつけてサラを抱き寄せるロラン。

「ロラン、気安くサラに触れないでちょうだいと言ったはずです」
「ユベールがサラをこんなに悲しませるというのなら、俺がサラをもらいます」

(いや……)

サラは、誰のものでもないのに。どうして2人はサラの意思を聞かないままに奪い合うのだろう。

「うっ」

熱い。

額が熱くて頭が割れそうに痛い。

胃が熱くてすべてが逆流してくるようだ。
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