ふたり輝くとき
第四章:光が差し込むなら

望み

スッと……冷たく身体に染み渡っていくクラドールのトラッタメントを受けながら、サラは目を閉じていた。

ゆらゆらと海を漂っているような、海が身体の中を巡っているような不思議な気持ち。

こんな風に呪文を入れるのは、マーレという小国の民だ。サラは行ったことがないけれど、水資源に恵まれた綺麗な国だと聞いている。水属性の彼らの呪文は優しい。

その質がクラドールの繊細なトラッタメントに向いているのか、優秀なクラドールはマーレ出身の者が多い。クラドール自体、そのほとんどがマーレの者である。

「そろそろ、お食事を普通のものに戻しても大丈夫かと思います」

トラッタメントが終わり、サラは薄っすらと目を開けた。

「そうですか」

付き添ってくれていたクロヴィスは、テーブルの上に置いてあったトレーをサラに渡してくれた。

「昼食からは、普通の食事を運ばせますから」

サラはそれを受け取ったけれど、食べる気にはならなくてじっと見つめたままぼんやりしていた。

この城にきて、どれくらいの時間が経ったのだろう。まだ、数ヶ月のはずなのにとても長い間この城に閉じ込められている気がする。

残酷な真実を知っても抜け出すことができない場所でサラは死ぬのだろうか。

(すべてを、壊す……?)

ユベールの言うように、自分を生み出したすべてを壊したら……この苦しみから解放されるのだろうか。

サラは……
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