ふたり輝くとき
「ん……サラ」

ユベールはサラを抱き締めたけれど、その手の中に求める温もりはなくなっていて腕は空を切った。

ハッとして起き上がれば、ユベールの隣にはサラの体温の名残すらない。部屋に差し込む夕日が、シーツをオレンジ色に見せている。

「なんで――っ!」

ユベールはベッドを抜け出し、床に散らばった服をかき集めて身につけた。

目を閉じてサラの気を感知しようと集中したけれど、全く彼女の気配を追えなくてイラついたらテーブルに置いてあった小瓶が音を立てて割れた。

それを見て、パラリージを飲ませてサラの気の流れを止めたのは自分だったと気づき舌打ちする。

「あぁ、もう!何だって言うんだよ!」

ユベールは扉に鍵が掛かったままなのを確認してから窓へと駆け寄って勢い良く開いた。冷たい風が吹き付ける。

バルコニーから下を見下ろすと、芝生が踏まれて少し色が変わっている箇所があり、それらはちょうどサラの足のサイズくらいだった。

サラはここから飛び降りて城を抜け出したのだ。

「帰りたい」と零していた彼女が向かう場所など1つしかない。サラの祖父母の家。この城の外壁を越えて結界から出れば、光移動の呪文を使うことができる。

だが、まだサラの気が感知できないことを考えれば、サラが呪文を使えるようになるまではもう少し時間がかかるはず。

「行かせないっ!」

ユベールはそのままバルコニーから飛び降りた。
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