ふたり輝くとき
ユベールはサラの瞼にそっと口付けを落とした。いつか、無理矢理キスをして泣かせたときとは違って甘い気がした。

「サラが僕を置いてくからだよ」
「だって、ユベール様は、私のことなんて――っ」

チュッと、触れるだけのキスでサラの言葉を遮る。

「好きだよ」

顔を少しだけ離して言うと、サラが目を見開く。

「ごめん。初めて、だったのに、乱暴にして……」

ユベールはサラの頬の涙を拭った。

「君が、ロランにキスされそうになってるのを見て……すごく、嫌だった。僕のサラに触って欲しくないって思ったら、止められなくて」

嫉妬なんて初めてでわからなかった。どうやって気持ちを伝えればいいのかも、知らなかったのに。

「ロランの匂いに染まる君も、父上やジャンに泣かされる君も、見たくない。僕と同じ匂いじゃなきゃダメ。泣くのは僕の前じゃなきゃダメ。僕が、泣かせたい」

またサラの頬を伝った涙の道筋を、指で辿っていく。

「この城に居ても、ずっと輝き続ける君が欲しい。僕を、僕の影を照らしてくれる君が……好き。弱くて小さいサラが愛おしい。僕を置いてかないで。僕の腕の中にいてよ」

サラの身体を抱き締めて、首筋に顔を埋める。

「嫌です……」

その答えに、ユベールの心臓が嫌な音を立てた。とても高いところから落とされたような感覚。先ほどバルコニーから飛び降りたときでさえ、こんな浮遊感はなかった。
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