ふたり輝くとき
「どうしてマーレに来たの?」

そう、2人は今、どこかの海岸にいる。正確な位置はわからないけれど、その景色や匂いからマーレ王国――ルミエールの隣国で、優秀なクラドールが多く育つ地――にいることは確かなようだ。

「ここは、やっぱりマーレ王国なのですね……ずっと来てみたいと思っていたから、たぶん、それで……」

サラは意識して目的地を定めた訳ではないようだ。呪文を使うときに思い浮かべた景色か、訪れてみたいと思っていた強い気持ちが反映されたのだろう。

「そうなの?僕は、君の家に行くのかと思ってたからちょっと驚いたよ」
「それは……」

サラの瞳が戸惑いを映し、少し視線を泳がせた。

「サラ?」
「あの……っ、わからなくなって。お祖母様たちの優しさが……それに、迷惑がかかると思ったので」

ユベールが促すと、サラは泣きそうな顔をして震えた声を出した。

「私がいなくなったとわかれば、一番にお祖母様たちのところへ……それだけでも、十分迷惑を掛けることになります。それなのに、私たちと会ったことがバレたらもっと……」

確かに、サラが城を抜け出せば必ず祖父母の家へ捜索が入るだろう。第一王子の正室に逃げられるなど本来ならあってはならない事態だ。それが、その夫であるユベールまでも一緒に失踪したのなら尚更だ。

「そっか。でも、その辺はクロヴィスがうまくやってくれると思うから」

そう、クロヴィスなら……

ユベールはフッとため息を漏らした。自分はクロヴィスのことが好きじゃない。だが、彼が優秀であるのは事実で、おそらく一番状況を冷静に分析できる人物。そして……ユベールは彼を頼りにしている。きっと自分でも気づかないまま、ずっとそうだったのだろう。
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