ふたり輝くとき
(ダメ!)

サラは首を振った。

ユベールにとって、あんなキスはキスのうちにも入らないのだと思う。若く見えるけれど、ユベールはサラよりもずっと大人で……苺味の子供騙しのキスなんて、何の意味も持たないのだろう。

(でも……)

そこに愛がなくても、義務でもいい。サラが羽を休めることのできる場所を作ってくれるだけでいい。

サラはもう1度ブレスレットを自分の手首と一緒にそっと握る。

ユベールがそこにくれたキスが、サラを守ってくれるような気がしたから。

祖母のくれたペンダントも。サラはお守りをたくさん持っている。

サラの縁談を喜んでくれた祖父母のためにも、逃げ出してはいけない。きっと、侍女たちともうまくやれるようになるだろう。

城に来たばかりで彼女たちもサラのことを知らないせいだ。それに、自分もまだ不安の方が大きくてネガティブになっている。

「サラ様、そろそろお時間です」

部屋の隅に控えていたクロヴィスの声にサラは顔を上げた。彼は現国王ダミアンの側近だが、ユベールが国王となればユベールの側近になる。今もユベールの補佐を片手間にこなし、サラの身の回りのこともいろいろと世話してくれる優秀な人。

「はい」

サラは1つ深呼吸をして扉に向かった。


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