ふたり輝くとき
「サーラッ!サラってば!」
「は、はいっ」

控え室の扉の前で、ユベールがサラの肩を叩く。

アドリーヌの最後の表情が頭から離れなくて、周りが見えていなかった。いつのまにか、ユベールに手を引かれて着替えにやってきたのだ。

「どうしたの?具合悪い?」
「大丈夫、です……ごめんなさい」

なんとか笑みを返せたと思う。しかし、ユベールは困ったような顔をしてサラを見つめている。

「疲れたかもしれないけど、もう少しだからさ。ダンスが終わったら僕たちも部屋に戻ろう」

その言葉にサラは頷いて扉に手をかけた。すると、ユベールがサラの手をクッと引いて……

「ユベ――っ」

チュッと、音を立てて頬にキスをされた。突然のことにサラは思わず頬に手を当てる。すぐに顔が火照って赤くなっていくのがわかった。

「ふふっ、真っ赤になった。疲れも吹っ飛んだ?」

ユベールに、いたずらっ子のように微笑まれて……ドキッと心臓が弾んだ。

「は、はい。あの、私……着替えて、来ますっ!」

どうしたらいいのかわからなくなって、早口でそう言うとサッと部屋に身体を滑り込ませて扉を閉めた。
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