ふたり輝くとき
悲鳴はなかった。

ドサッとアドリーヌの身体が床へと倒れこむ。

クロヴィスはそれを見届けて、サラの目を覆っていた手を離した。ユベールはサラの手を再び握ってフッと息を吐く。

「僕たちを追ってきたり、連れ戻そうとするなら君たちもこうなる」

その場にいた全員が息をするのも忘れているかのような静寂。すべての視線がピクリとも動かないアドリーヌに注がれている。

「サラ。心配しなくても、大丈夫」

ユベールは怖がるサラの耳元にそっと囁いた。その意味を図りかねてユベールを映す青く澄んだ瞳。ユベールはサラを安心させるために微笑み、王座の方を向いた。

「父上、母上――いや、ダミアン様にアンナ様。僕たちは今、この瞬間から他人です。それでは、失礼いたします」

王子としての振る舞いなど、真面目にやったことはなかった。公務でも、ユベールは自分のやりたいようにやっていた。それはささやかな抵抗だったのかもしれない。“王子”という人形として振舞いたくなかった。

だけど今、最初で最後……その“王子”としての姿を演じたのは、すべてを置いていこうと決めたから。

サラと、2人で始めるために。

創造が破壊の上に成り立つというのなら、終わりは始まりだ。

思えば、ユベールは……壊すことだけを考えていて、その先を考えていなかった。自分だけが生き残っても何も変わらなかった。

ユベールの目的は果たされた。もう、この城にいる意味はない。だから、出て行く。サラとの“物語”を始めるために。
< 214 / 273 >

この作品をシェア

pagetop