ふたり輝くとき
ドキドキする胸を手で押さえながら、扉にもたれかかる。

こんなことくらいで動揺してはいけない。今夜は“初夜”だ。ユベールと朝まで過ごすことになるだろう。サラだって、頬や……唇へのキスだけでそれが成り立つとは思っていない。

「サラ、遅かったな」
「――っ!お、父様?」

聞こえるはずのない声に視線を上げると、そこにはジャンがソファに座っていた。着替えを手伝ってくれるはずの侍女はいない。

「お前に少し話がある」
「は、い……」

鋭い視線に促されてサラはジャンの向かい側に座った。すぐにジャンが口を開く。

「回りくどい言い方は好きではないし、あまり時間もないからハッキリ言うが……」

ジャンの厳しい眼差しを受けながら、サラはゴクリと息を呑む。あまり良い話ではないと本能的にわかる。

「ユベール王子を殺しなさい」

サラの中で時が止まった気がした。

“殺しなさい”

今、ジャンはそう言った……と思う。サラはヒュッと音を立てて息を吸った。そこで初めて自分が息を止めていたらしいと気づく。

「ちょ、ちょっと待ってください。それは一体どういうことですか?」

理解ができない。いや、もしかしたら聞き間違いかもしれない。先ほどユベールにキスをされて、ドキドキしていたから。きっと、そうだ。
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