ふたり輝くとき
「婚約者ごっこも終わったし、もういいでしょ?君のこと、何とも思ってない。道具として使わせてもらうし、要らなくなったら捨てることも躊躇しない」

サラはグッと唇を噛んだ。

泣いては、ダメ……

「君も、僕のこと好きじゃないでしょ?ちょっと憧れてたって程度だ。正直面倒なんだよね、初めてって。まぁ、気持ちがなくてもいいなら“初夜”の続きをしてもいいけど……」

それが嫌なら出て行け、と言われているのだ。

酷い言葉だけれど、それでもサラはこれがユベールなりの優しさなのだと思った。サラが初めてだと知っているから、選ばせてくれるのだと。

「わ、かりました……」

いずれは、ユベールの子を生まなくてはならなくなるのかもしれないけれど……今は、まだその覚悟ができていない。今日1日でいろいろなことがあって、混乱もしている。部屋に戻ってゆっくり考えて……落ち着こう。

そう思って、ベッドを降りようとしたけれど。

「泣かないの?」

両足が床に着いたところで、ユベールがサラの手を掴む。

「……どうして、ですか?お父様の意図は知らなかったけれど、この結婚が愛のないものだと知っていて、私もそれを受け入れました」

サラは、そっとユベールの手を掴んで自分の手から離した。そして、ありったけの嬉しかった出来事を思い出して、笑顔を作る。

「おやすみなさい、ユベール様」

きっと……ユベールにはその“嘘”がバレていただろうけれど。
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