ふたり輝くとき
――揺れる馬車の中、サラはとても緊張していた。

今までほとんど会うことのなかった父親が向かいに座っているのは初めてだと思うし、その目的地がなんとルミエールのお城なのだ。

先ほどから息が詰まりそうな馬車の中、ずっと胸元のペンダントを握っている。祖母が出かける前に「お守りだから」と言って渡してくれた。

サラはルミエールの上流階級の家の一人娘。サラを産んで間もなく亡くなった母親の代わりにサラを育ててくれたのは彼女の祖父母だった。父親のジャンはルミエール軍の元帥で、城の兵舎に住んでいてあまり帰ってこないため会う機会が少ない。

それが突然、サラをユベールの正室としてルミエール王家に嫁がせると言ってきたのが1週間前。ユベールがサラを気に入ったのだとジャンは言ったけれど、サラは不安だった。

(お会いしたこともないのに……?)

サラはユベールに会ったことはないと思う。建国の記念パレードなんかでは、見かけることはあった。でもそれは、サラが一方的に“見かける”だけであって、ユベールは群がる国民に埋もれたサラの存在になど気づくはずがない。

それでも、祖父母がこの縁談をとても喜んでいたから……わがままは言えなかった。王家に嫁ぐ、王子に見初められるというのは名誉なこと。

今までサラをとても大事に育ててくれた彼らの本当に嬉しそうな顔を見たら、サラも嬉しかったから。

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