ふたり輝くとき
「サラ……可愛い」

どうしてだろう……

こんなことを女に囁いたことはなかったのに、自然に口をついて出た。

「やめて、くださ……っ」
「どうして?」

やめる?なぜ?

やっと、サラが可愛いお人形になったのに?

金色に輝くような長いストレートの髪に、真っ白い肌。大きな瞳は青と深い緑が混ざったような……不思議な色。その海から溢れてしまった雫が一筋、愛らしく桃色に染まった頬に道を作っている。

「ねぇ、サラ。今ね、君、すごく可愛いんだよ?どうしてだろうね?」

サラの涙の跡を指でなぞっていくと、なぜか落ち着いた。先ほどまで、イライラとしていたのが嘘のように……

なぜなのだろう。

「サラ……僕、今すごく楽しい」
「――っ」

パチンと弾けるような音がして、部屋が一瞬光る。

眩しくて目を瞑り、まぶたをあげたときには目の前にいたはずのサラが消えていた。

さすが、というべきか。光の移動はユベールでさえ使えない。そもそも物体、増して生きている者を移動させるのは繊細な呪文であり、ユベールには向いていないし必要ない。

必要なのは己を守るための攻撃のみ。攻撃は最大の防御だ。

ユベールは指先に残るサラの涙を舐めた。

「サラ、君は……僕のお人形だ」

ロランには渡さない。サラは、ユベールのものなのだから。
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