ふたり輝くとき
「アンナ様?いらっしゃいますか?」

ノックと共にクロヴィスの声が部屋の外から聞こえてきた。

「あら、なあに?今、サラとお喋りしているのよ」
「失礼致しました。しかし、ダミアン様がお呼びのようで侍女たちが探しております故……」

扉が開き、クロヴィスは頭を下げて言った。

廊下から入ってきた冷たい空気を、サラは一気に吸い込む。

「ダミアン様が?それは急がなければね。ありがとう。それじゃあ、よろしくね?」

アンナはサラの返事を聞く前に部屋を出て行ってしまった。それを見送ってから、クロヴィスがサラに向き直る。

「申し訳ございません。少し滞った執務があり、遅くなりました」

どうしてクロヴィスが謝るのだろう。サラは弱々しく首を振った。なんだかとても疲れてしまった。

「サラ様、お加減が悪いのですか?」
「いえ……大丈夫です」

サラは1度深呼吸をして心を落ち着けた。

「お茶でもお淹れ致しましょう」
「いらない、です。私……少し、外の空気を吸ってきます」

クロヴィスの申し出を断って、サラは足早に部屋を出た。

廊下に出て、涙を拭いながら足を動かした。アンナのつけていた香水の匂いが消えるまでは、部屋に帰って来られそうにない。
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