ふたり輝くとき
「父上、サラが嫌がってるから離してあげてよ」

扉が開く音に続いてユベールの声が響いた。軽い調子であるのは相変わらずであるけれど、その声色は少し低いように感じられた。

「ユベール……」

ダミアンは眉をひそめてサラから身体を離した。それと同時にずっと床に引っ張られるようだった身体が軽くなる。

けれど、サラは動けなかった。ぼやける天井を見つめながら、ユベールの近づく足音を聞いていた。

涙がどんどん溢れて止まらない。

「僕のお嫁さん、盗らないでよ。父上には側室がいっぱいいるんだからさ」

クスクスと笑いながらそう言ったユベールだったけれど、たぶん笑っていない。結婚式の夜のような抑揚のない笑い声だった。

「しかしシュゼットが――っ」
「サラはサラだよ。母親とは違う」

ピシャリと言ったユベールに、ダミアンが黙った。

ユベールはサラの倒れている場所まで来ると、そっと身体を抱き起こして上着をかけてくれた。

「サラ、大丈夫?」
「ユベール様っ」

サラはユベールに抱きついた。すると、ユベールは優しくサラの頭を撫でてくれた。先ほどまで冷たかった身体が温かくなっていく。

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