理科室のオルガン
理科室のオルガン
今思えば、こいつには散々振り回されてきた。
「ねぇねぇしゅうやん」
本を読んでる私の隣で意味不明な言葉を発する女。
柔沢 江夏。
幼稚園からの付き合いで、家も隣同士。
私がこの高校を受けようとしたところ、
「私も行く!」
などと言い出して、ほんとに受かってしまった始末。
私は読んでいた分厚い本をパタンと閉じ言う。
「私はお前にそんなあだ名をつけられた覚えはない」
「えぇ~。
じゃぁ……」
「普通に呼べ普通に。
あだ名などという下らんものはつけるな」
私は江夏の眉間に軽く手加減したチョップをくらわす。
「いてっ。
もぅ、秋はいつもそうだ!
たまには私の愛も受け入れてくれ!」
「残念だったな。
私の器はすでに満杯だ。
それより……何か話しがあるんじゃないのか?」
「あ、そうだそうだ!」
右手はグー。
左手はパー。
よくテレビで見るひらめきのポーズをする江夏。
どこから見てもアホらしい。
「あのねのねのねのねの……」
「しつこい。
早く言え」
こいつはどうしてこんなに私をイラつかせる天才なのだろうか。
この才能をほかのところで発揮しろよ……。
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