君と、世界の果てで
母親は振り返り、え?と聞き返した。
俺は、ぼそりと次の言葉を落とす。
「紗江と、別れるかも知れねぇ……」
「あらら……」
紗江は取引先の娘だ。
俺の一方的な婚約破棄は、父親の会社に迷惑をかけるだろう。
「しょうがないわねぇ」
まるで、子供のイタズラを見つけたような口調で言われて。
「良いのかよ!」
思わず、ツッコんでしまった。
「だって、私が結婚するんじゃないもん」
「そりゃ、そうだけど……」
「お母さん、思ったの。陸が、亡くなった時」
「は……?」
「反対せずに、好きな事をさせてあげて、良かったなぁって」
「…………」
「無理に進学させたり、就職させたりしなくて、良かったと思ってるの」
母親は、寂しそうに笑う。
「だから翼も、できるうちに、好きな事をしたらいいわ。
いつ、何があるかわからないもの。
子供に迷惑かけられるのは、親の仕事だし」
陸に似た、長い睫毛と高い鼻。
その顔は、シミや皺がたくさんだけど。
心底、この人が母親で良かったと思った。