君と、世界の果てで
「マジ……?聞いてないんだけど」
陸が、俺をにらむ。
確かに、言ってない。
婚約は、半年前、こいつにベースをやった時に決まっていたのに。
その時俺は、バンドをやめて、親父の会社を手伝う決心をした。
それが、すごく格好悪い事のように思えて。
まんまと乗っかってきた婚約話も、あまりしたくなかったのだ。
そう言えば、紗江が傷つくだろう。
「タイミングが無かったんだよね、翼」
「そう……おめでとう」
陸は、適当に言い捨てると、待っていたメンバーの元に走っていった。
そこに、金髪の頭が見えた。
あのボーカルの女だ。
ミオと呼ばれた彼女の手をひき、陸が戻る。
「兄貴。俺も言ってなかったけど、コレ、彼女だから」
近くで見ても毛穴が見えない。
本当に人形のような彼女は、その白い頬を赤く染めて、うつむいた。
長く濃い睫毛が、頼りなくユラユラ揺れる。
俺は思わず、息を飲んだ。