君と、世界の果てで
「いるかなって予感がしなきゃ、来ませんよ」
「お前はエスパーか」
「実は、そうなんです」
深音は、俺の隣に腰かけた。
首には、やたらふわふわした薄いピンクのマフラーをしている。
潮風のせいか、いつもの香水は、あまり匂わない。
「なんて、昼から先生の都合で休講になったんで、寄ってみたんです」
「そんな事だと思った」
深音は、興味津々という顔で、俺のアコギをのぞきこんだ。
「ギターも弾けるの?」
「まぁ……下手だけどな」
「聞きたいな」
「じゃあお前、歌え」
「翼さんは?」
「声は良いんだが、歌はなぁ……」
うそ、と笑う深音に、思わずこっちも顔がゆるんでしまう。
「ほら」
誰でも知っているだろう、60年代洋楽のスタンダードナンバーを弾く。
前奏で深音は、上手ですよ、と笑った。
そして、いつものように、息を吸って。
透き通る声を、真っ直ぐに放つ。