君と、世界の果てで
陸は、棒きれみたいな腕を伸ばし、そうかなぁとため息をついた。
「あのさぁ、兄貴」
「あぁ?」
「本当に紗江ちゃんと結婚すんの?」
俺を見上げた陸の長い前髪が、さら、と流れる音がした。
「まだ婚約だ」
「婚約って、つまり、結婚の約束だろ」
「まぁ……でも、すぐにはしないだろうな。
ただ、約束が欲しいんだとよ」
「何だよ、それ……」
陸が眉間に皺を寄せ、チッと舌打ちをした。
「俺は反対だ」
「何でだ?紗江は悪い奴じゃないぞ」
「ただの、取引先の娘じゃないか!」
珍しい。
こいつが怒る事なんて、あまり無いのに。
表情に不快が張り付いたような陸の顔は、見た事が無いほど歪んでいる。
「陸……どうした?」
「紗江ちゃんは、ズリィよ」
「何が?わかりやすく話せよ」
尋常でない陸の様子に、こちらの方も不快感が押し寄せてくる。
いつもの陸はどこへ行った?