君と、世界の果てで
俺は、腕をつかんでいた影を。
その男を。
思いきり、殴った。
バキ、と鈍い音がして、男はコンクリートの壁に背中を打ち付けた。
黒い長髪の男。
間違いない。
元ドラムの、智とかいう男だ。
「……っ……」
完全に頭に血が昇っってしまった俺は。
逃げようとした智の胸ぐらをつかみ、拳を振り上げる。
その瞬間。
「ダメ……手が……!」
深音の悲鳴が聞こえて、正気に戻る。
気づけば、男を殴った右手の指から、血が出ていた。
中指にしていた指輪にえぐられたのか。
「お前、智だな」
本人と、深音がハッと驚いた顔をする。
「な、何で……」
「バレたくなきゃ、ネットに顔さらしてんじゃねぇよ」
逃がさねぇ。
体重をかけて、智を壁に押し付ける。
「深音、警察を呼べ」
深音は、はだけた胸元をつかみ、青い顔をますます青くした。