君と、世界の果てで
すると、俺の下からクツクツと、下品な笑い声が聞こえた。
「できねぇよな」
「何?」
「警察呼ばれて、困るのはお前だもんなぁ、深音」
何だって?
俺は自分の耳を疑った。
「あの女は、人殺しだぜ。
そのくせ気取って、一回もやらせてくれねぇんだ」
智の目は、完全に常人のものではない。
焦点がどこにもあっていない。
人殺しだって?
脳裏に、陸の首のアザが浮かぶ。
俺が混乱した隙をついて、智は体をすり抜けさせ、走り出した。
「行かないで!」
後を追おうとした背中に、深音の悲鳴がぶつかった。
「翼さん……」
……こんな、頼りない彼女を置いていけるわけがない。
「……大丈夫か?」
ゆっくり近づいて、膝を折ると。
深音は、俺にすがりついてきた。
この前と同じだ。
いや、この前より。
震えていた。
「ごめんなさい……」
「何が」
「指……」
「あぁ……大したことねぇよ」