君と、世界の果てで


すると、俺の下からクツクツと、下品な笑い声が聞こえた。



「できねぇよな」


「何?」


「警察呼ばれて、困るのはお前だもんなぁ、深音」



何だって?


俺は自分の耳を疑った。



「あの女は、人殺しだぜ。

そのくせ気取って、一回もやらせてくれねぇんだ」



智の目は、完全に常人のものではない。


焦点がどこにもあっていない。


人殺しだって?


脳裏に、陸の首のアザが浮かぶ。


俺が混乱した隙をついて、智は体をすり抜けさせ、走り出した。



「行かないで!」



後を追おうとした背中に、深音の悲鳴がぶつかった。



「翼さん……」



……こんな、頼りない彼女を置いていけるわけがない。



「……大丈夫か?」



ゆっくり近づいて、膝を折ると。


深音は、俺にすがりついてきた。


この前と同じだ。


いや、この前より。


震えていた。



「ごめんなさい……」


「何が」


「指……」


「あぁ……大したことねぇよ」


< 174 / 547 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop