君と、世界の果てで


「兄貴は、俺より才能もテクもある。

身長も高いし、顔も悪くない。

だから、スカウトだって、来てたんだろ?」


「……何で知ってんだよ……」


「音楽で食っていきたいって、言ってたじゃねぇか!」



陸が、俺の胸板を、拳で叩いた。


しかし、俺の胸を傷めるのは、その非力な拳じゃない。



「兄貴、考え直せよ……。

兄貴がまた弾くなら、ベース、返すから……」



胸に当たった拳が震える。


肩に、陸の小さな頭がもたれかかった。


本当に、どうかしてるんじゃないだろうか。


俺の手は無意識に、陸の肩を抱いていた。



「陸、俺がベースをやめたのは、会社や紗江の為じゃない……」



陸は、顔を上げない。



「俺が……。

俺自身が、限界を感じただけなんだ……」



それは、悲しいが本当の事だ。



「だから、そんなに、俺を哀れむな……」



やっと言葉を吐き出すと、陸がパッと顔を上げた。


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