君と、世界の果てで
「あっ」
小さな声が、背中から聞こえた。
ギターを持ち、振り向くと。
涙目の深音がいた。
「……気に入らないか?」
深音は、首を強く横にふった。
「いつの間に?」
「トイレに行ったやつを待ってる間」
「もう……」
深音の手には、アウトレットで見つけた香水が握られている。
俺は少し迷ったが、結局ベタなピンクの瓶を選んだのだ。
見た目だけで、女の子が好きそうだから。
そして、急いでいたから。
「ありがとう……嬉しいです」
ふにゃりと笑った深音の目は、そのまま溶けてしまいそうだ。
俺は、そんな彼女を抱きしめたい衝動を必死に抑える。
深音は早速ブランドマークが立体になったふたを開け、空中に向かってプシュ、と一吹きした。
花束のような菓子のような、とにかく甘い香りの粒子が、深音の上でキラキラと舞う。
その香りを纏うように、両手を広げ、くるりと回ると。
うっとりとした目で、彼女は言った。
「これからは、この香りがあたしを守ってくれるんだ……」