君と、世界の果てで
深音はぷうと膨らみながら、土鍋をテーブルまでヨチヨチと運ぶ。
その隙に俺は、炊飯器を確認した。
米はちゃんと炊けていた。べちゃべちゃでも、カピカピでもない。
良かった……。
俺はそれを見なかったフリをして、茶碗や箸を運んだ。
「いただきます」
「召し上がれ」
鍋を前に、深音は自信満々な顔をしている。
そりゃそうだ。
耳のいい俺は、彼女がこっそり母親に電話していたのを知っている。
“美味しい鍋つゆ”と書かれたダシを買ったのも、俺だし。
それで煮れば、大体のやつは同じ味にできるだろう。
「美味しい?」
「うん、美味い」
「ほら!」
何が、ほらだ。
俺は苦笑を噛み殺す。
しょうがねえな、許してやろう。
本当はできないのに、頑張ってくれたから。
その満足そうな笑顔を見せてくれるなら。
最近イライラしてた分、胸がほこほこと温まる感覚がした。
彼女が、俺を悲しませるとしたら。
心変わりをした時か。
俺より先に死んだ時じゃないだろうか。