君と、世界の果てで


深音はぷうと膨らみながら、土鍋をテーブルまでヨチヨチと運ぶ。


その隙に俺は、炊飯器を確認した。


米はちゃんと炊けていた。べちゃべちゃでも、カピカピでもない。


良かった……。


俺はそれを見なかったフリをして、茶碗や箸を運んだ。



「いただきます」


「召し上がれ」



鍋を前に、深音は自信満々な顔をしている。


そりゃそうだ。


耳のいい俺は、彼女がこっそり母親に電話していたのを知っている。


“美味しい鍋つゆ”と書かれたダシを買ったのも、俺だし。


それで煮れば、大体のやつは同じ味にできるだろう。



「美味しい?」


「うん、美味い」


「ほら!」



何が、ほらだ。


俺は苦笑を噛み殺す。


しょうがねえな、許してやろう。


本当はできないのに、頑張ってくれたから。


その満足そうな笑顔を見せてくれるなら。


最近イライラしてた分、胸がほこほこと温まる感覚がした。


彼女が、俺を悲しませるとしたら。


心変わりをした時か。


俺より先に死んだ時じゃないだろうか。


< 255 / 547 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop