君と、世界の果てで
深音が登場しただけで、わあぁ、と歓声が起こった。
どうやら、たった一度のライブで、ファンが少し戻ってきてくれたというのは、本当らしい。
あ、深音の両親、見っけ。
もみくちゃにされないように、一番後ろでビールを片手にニコニコしている。
「ミオー」
「タカフミー」
と、以前からのファン(だろう、たぶん)がメンバーの名を呼ぶ。
すると、深音の父親が、片手を口に添え、野太い声で叫んだ。
「ツバサ、カッコイイー!!」
会場にどっと笑いが起きた。
おいおい、やめてくれよっ!!
こっちはクールなベーシスト気取ってんだから……
崇文に目配せすると、笑いをこらえ、息を整え、ギターを鳴らした。
1曲目は、自己紹介代わり。
『World's end』。
冒頭のギターソロだけで、観客席の床が軋みだす。
やがて全てのパートが結合し、深音の歌声が響くと、会場全体が揺れ始めた。