君と、世界の果てで
(1)長すぎる日
狭い視界に、ストッキングを履いた女性の足が現れた。
「堺沢さん」
静かな声に名前を呼ばれ、顔を上げると。
愛しい人に似た、彼女の母親が立っていた。
俺はそれまで、薄暗い、救急患者用のロビーで、座ってうつむいていた。
どれくらい、そうしていたのだろう。
「堺沢さん、腕は大丈夫ですか?」
「はい……それより、深音は……」
俺の右腕の怪我は、化学熱傷……硫酸による火傷、と診断された。
あの水音。
そして、転がった瓶に入っていたのは、硫酸だったのだ。
硫酸に焼かれたのは、右腕のひじから下。
深音の手の平二つ分くらいの面積だった。
皮膚はただれて見るも無惨だったが、筋肉や神経に影響は残らないだろうという医者の言葉が救いだった。
明日は、警察の事情聴取を受けなくちゃならない。
それよりも。
倒れて運ばれた深音の容態がわからないことが、俺を苛立たせた。