君と、世界の果てで
そうだった。
どんな事態になろうとも、彼女を歌わせてやるつもりだったのに。
それがリアルに迫ってきて、途端に怖くなるなんて。
卑怯だよな。
彼女が俺に望むのは、心配なんかじゃない。
ただ、後ろでベースを弾く事。
彼女が歌える場所を作る事。
彼女が歌いたい歌を作る事。
迷う事はない。
それが、彼女が望む事の全てだ。
俺は、自分の頬を叩いて気合いを入れ直し、ピックをつかんだ。
見たことない程の観客の数。
お前達が見たいのは、美貌のボーカルか?
それとも、この醜い火傷の痕か?
シャツの袖のボタンを外し、腕をまくった。
すると、何故か一部から歓声が上がる。
さぁ。
行くか。
不安も傷痕も、お前の歌を載せるエネルギーに変えてやる。