君と、世界の果てで
「あたしは……」
「まぁいいわ、答えてあげる。
私は、彼がバンドをやめて帰ってきてくれるのを待ってるの。
私にバンドは邪魔なだけ。
必要なのは、会社員である彼だから」
「……何それ……?」
「貴女も女ならわかるでしょ。
好きな人と、普通の家庭を作りたくない?
もちろん、ある程度裕福で、定収入がある相手と」
陸が言っていた事を思い出した。
『紗江ちゃんは、安定がほしいだけ』
「私の卒業後の進路を、未来を、全部貴女が壊したのよ」
にらまれた深音が、言い返す。
「そんなの……知らない。
愛情のないあなたが、愛想尽かされただけじゃない」
それを聞いた途端。
紗江の右手が。
深音の左頬を打った。
「最低ね。自分のした事を棚に上げて」
何故か、足が動かない。
深音を助けなきゃいけないのに。
冷たい空気に阻まれて、動けない。