君と、世界の果てで
なかなか、肝心のボーカルが現れない。
あるのは、マイクスタンドだけ。
ギター、ドラムのメンバーも位置に着いたというのに。
ん?
メンバーが、目を見合わせた。
おいおい、挨拶もボーカルもなく始まるのかよ。
不審に思う観客の頭に、予告もなく、音の嵐が押し寄せる。
「ひゃあっ」
思わず、彼女が間抜けな声を上げた。
人を不安な気持ちにさせる、不吉な和音。
内蔵をえぐるような、ベースとドラムの振動。
その真ん中に。
颯爽と、彼女は現れた。
木で出来た高いソールの靴は、ガツガツガツと容赦なく床を踏む。
しかしそれは、よく注意すれば、ドラムの振動とシンクロしている事がわかった。
ステージのセンターに立った彼女に、観客は息を飲んだ。