君と、世界の果てで
「深音……」
名前を呼ぶと。
昔より年を重ね、さらに美しくなったような彼女は、優しく微笑んだ。
「聴こえたよ。あなたの歌」
スタンドマイクが彼女の声まで、綺麗に拾った。
ホール全体が静寂に包まれて。
俺達を見守っている。
「想い、届いたよ。
だから、帰ってきたんだよ」
「深音……」
見下ろした彼女の胸の谷間に、手術の傷跡が見えた。
「お願い。
早く、抱きしめて」
「……しょうがねぇ、な……っ!」
昔と同じ、小悪魔の顔で、お願いをされて。
細いその体を、力の限り、抱きしめた。
二人の体の間に、ベースが挟まれて。
きゃあああ、と、ファンの悲鳴や歓声が響く。
それより、俺の耳に響くのは。
深音の、確かに力強く打つ、胸の鼓動。
ああ。
生きている。
間違いなく。
君が。
生きている。