君と、世界の果てで


彼女の手にあったのは。


ベースを弾く、ピックだった。


指で弾くプレイヤーも多いが、ロックで使うゴリゴリした音の為にピックを用いるのが、俺たち兄弟は同じだった。



「天国でも、弾けるように……

本当にベースが好きだったから」



彼女の言葉に誘導されるように、何故か涙が溢れて。



俺はもちろん、としか言えなかった。



彼女は、棺の横に、膝をついて。


胸の上で組まれた陸の指の間に、そっとピックをはさんだ。



『やりぃ!ありがとう、兄ちゃん』



少し幼い陸の声が聞こえた気がした。



あれは、高校に入り、もう少し良いベースを買った時。



俺のお下がりのオモチャベースを、陸にやった時の声だ。



陸はその日から、学業そっちのけで、めちゃめちゃ練習したんだっけ。



俺が唯一、お前に与えたもの。



陸。



少しは、お前の人生の役に立ったか?



溢れた涙が、止まらない。


やべぇ。



かっこわりい。




スーツの袖で涙をぬぐい、深音を見る。



その横顔に、どきりとした。



ビスクドールの横顔は、

ガラス玉みたいな瞳から涙を流してはいたが。


何故か。



うっすらと、微笑んでいるように見えた。




< 53 / 547 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop