君と、世界の果てで
彼女の手にあったのは。
ベースを弾く、ピックだった。
指で弾くプレイヤーも多いが、ロックで使うゴリゴリした音の為にピックを用いるのが、俺たち兄弟は同じだった。
「天国でも、弾けるように……
本当にベースが好きだったから」
彼女の言葉に誘導されるように、何故か涙が溢れて。
俺はもちろん、としか言えなかった。
彼女は、棺の横に、膝をついて。
胸の上で組まれた陸の指の間に、そっとピックをはさんだ。
『やりぃ!ありがとう、兄ちゃん』
少し幼い陸の声が聞こえた気がした。
あれは、高校に入り、もう少し良いベースを買った時。
俺のお下がりのオモチャベースを、陸にやった時の声だ。
陸はその日から、学業そっちのけで、めちゃめちゃ練習したんだっけ。
俺が唯一、お前に与えたもの。
陸。
少しは、お前の人生の役に立ったか?
溢れた涙が、止まらない。
やべぇ。
かっこわりい。
スーツの袖で涙をぬぐい、深音を見る。
その横顔に、どきりとした。
ビスクドールの横顔は、
ガラス玉みたいな瞳から涙を流してはいたが。
何故か。
うっすらと、微笑んでいるように見えた。