君と、世界の果てで
陸の葬式から、何度目かの日曜日。
両親もなんとか、落ち着きを取り戻せたみたいだ。
もちろんそれは見かけだけだろうけど、陸が死んだ直後の半狂乱の二人に比べれば、格段に良くなった。
今日は紗江に食事に誘われたが、先約があるからと、断った。
無事に、深音と連絡がとれたのだ。
「ちょっと、行ってくる」
「どこに?」
「陸んち。
整理してくるわ」
倉庫で首を吊ったとはいえ、陸が住んでいたあの物件はもう売れないかもしれない。
けれど、陸の遺品をそのまま放っておくことは、到底できない。
「ご苦労様。
悪いわね、お兄ちゃんに頼りっきりで」
「いいよ。力仕事は若者に任せろ。
ジジババは仲良く茶でも飲んでな」
「もう、バカにして」
母親は、力無い笑顔で見送ってくれた。
俺はいつもの黒のセダンに乗って、海辺の町へ向かった。
かり、とハンドルに今までなかった抵抗がある。
それは葬儀の翌日から、右手の中指に、陸の遺品のシルバーリングをはめているからだ。
弟のいない世界に慣れたとしても。
決して、彼を忘れる事のないように。