君と、世界の果てで


そんなわけで、元の陸の家……海辺のあの家で。


陸が残していったベースを持って。


久しぶりに、メンテナンスをした。


弦を張り替えて、チューニングをして。


……はぁ……。


思わずため息がこぼれる。


どうして、引き受けてしまったんだろう。


もう二度と、ベースを弾くつもりはなかったのに。



しかし。



深音が、歌うのをやめてしまう。



それは、絶対に阻止したいと思った。


だって、あんなに人を惹きつける才能があるのに、もったいないじゃないか。


陸はこんな状態になるのを見越して、俺に「よろしく」と頼んだのか?


そんな事を思いながら、久しぶりにベースを触る。


あぁ。


本当に、久しぶりだな。


陸はお前を大切に扱ってたみたいで、良かった。


悪いな。


お前を捨てた元主人に弾かれるのは、嫌だろうけど。


また、よろしく頼むな。


まあ、新メンバーが見つかるまでの、代役だけどよ。


アンティークの名器とまではいかないが、愛着のあるそれを、優しく撫でた。


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