背中の男
二人きりになったらいいよ。

そんなことを思いだす。

いまは彼の部屋。

二人きり。

隣に座る彼の頬に手をのばす。

丁寧に剃られたつるんとした頬を撫でる。

少ししっとりしていた。

指先だけで触れていたのを包むように掌で被う。

顎に滑らせて髭を弄ぶ。

生やし始めた当初は口髭だったのだが、
同僚に似合わないと言われたらしい。

いまの方がわたしも好きだ。

なめらかな頬とざらざらした顎。

感触の違いを楽しむのがとても気持ち良い。

「…くすぐったい?」

「いや…」

興味津々なわたしなどまったく感心がないようだ。

彼の視線は目の前のテレビに向いている。

隣に座るわたしなどじゃれる猫くらいにしか思っていないのだろう。

ずっと触れてみたかった。

職場では頑なに拒否されていたので、ここぞとばかりに撫で回す。

飽きることなどない。




―――この人がわたしのものだったら―――


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