背中の男
狙っていたのは髭だった。

でも追いかけていたのは背中だった。

服の上からもわかる広い背中。

飛びつきたくなる衝動を何度抑えたことか。

もともとスポーツをやっていたのもあるが、
ほぼ毎日トレーニングしているそうだ。

離婚してから仕事終わりの時間を持て余してしまうらしい。

彼らしいのはジムではなく、
公営体育館の運動室と言うところ。

以前高らかに

「ジムより安くて設備は変わらない」

と話していた。

そんな日々鍛えられた美しい背中がいま眼前にある。

しかも裸で。

服の下は想像でしかなかったが、
わたしの拙い想像を遥かに超えていた。

見ているだけで溜め息が出そう。

しなやかな筋肉は指を沈めるとしっかり返す弾力がある。

被っている肌は嫉妬するくらいなめらかだ。

厚い肩の膨らみ、
真っ直ぐな背骨の窪み、
細まった腰、
きゅっと引き締まったお尻。

なんて完璧なのだろう。

行為に疲れ、
俯せでまどろむ彼を穴があく程眺める。

背中は触れても何も言わなかったが、
腰から尻にかけてはくすぐったいとよじられてしまった。

先程下から見上げたときの胸筋も良かった。

喘ぐわたしが必死に掴んだ二の腕も。

一回り以上年上の彼はお腹は自信ないと言っていたが、
そんなことはなかった。

割れてはいないだけで皮膚の下はちゃんとある。

どれも素敵だ。

背中には敵わないけれど。



―――次はもう、ないだろうな―――



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