結婚しました!
「先程はお騒がせしました。」


まあ、迷惑をかけたから先に謝っとく。



「あ、そんな、大きく切れてなくてよかったです。

 お大事にしてください。



 今日これから夏名山の頂上の湖畔で、花火大会があるんですが

 奥様といかがですか?



 家からマイクロバスが出ますので、よろしかったら、

 湖の上はイルミネーションが施されて幻想的なんだそうです。


 私も、仕事があるので、

 お客様から聞いているだけで直接見たわけではないんですけど。 」

ニッコリと微笑む。

育ちの良さそうな笑い方に好感が持てる。

年を重ねて柔らかい物腰の女将は、

こぼれ落ちんばかりの大きな目をしている。


結い上げられ、剥き出しになった額は白く、

シワ一つなかった。


その気になってみれば本当に良く似ている。


「女将さん、

 私は昨日籍を入れたんです。」


「まあ、そうですかおめでとうございます。」


「妻の名前は音々といいます。

   野村音々です。」


「まあ、音々…さん…珍しいお名前ですね。」


「ええ、珍しいでしょう?

 ついでに旧姓は高宮です。」


女将の動きがぴたりと止まった。



「あ…あの…」



「私の言いたいことお分かりになりませんか?」



「それは…まさか?」



「はい、私の妻。

 音々は、あなたの娘さんです。」



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