結婚しました!
音々

お前を残して逝くことは、本当に悔やまれてならない。

オーストリアに私を呼んでくれたこと、ほんとうにうれしかった。

もし、お前がこれを読んでいるなら、

私は、お前と一緒には暮らせなかったということだね。

でも、もう長くないことはもうずっと前からわかっていた。

ただ、自立して向こうで頑張っているお前を

ひと目でも、見ておかなかったことは残念でならない。

10年もの間、一人にしてしまったことは、

本意ではなかったけれど、

呼び戻すことなんて考えられなかった。

ここでは、お前は幸せにはなれないと判っていたから。

25年前、

お前をここに迎えてしまったことで、

たくさんの辛い思いをさせてしまった。

お前にとって、辛いことばかりだったかもしれないが、

私たちにとっては、幸せばかりお前にはもらったんだよ。

子供に恵まれなかった私たちにはかけがえのない存在だったんだ。

かあさんの心の闇に気づかなかった私が、お前の心にとんでもないものを

残してしまったこと、一生かかっても償うことなどできはしない。

それでもこの先、音々のことを守ってくれる人が現れたら、

一度、下田病院の精神科の由比せんせいを訪ねるといい。

お前の全てについて話してくれるだろう。

その上で、自分がどうすべきなのか考えなさい。

遺言状には、この家と、財産、

そして保険金を全てお前に譲りたいと書いた。

親戚の者が色々言ってくるとは思うが、お前にはその権利がある。

遺言書と法律がお前を守ってくれると信じている。

心からお前を愛しているよ、


音々、お前がいてくれて

私を父と慕ってくれてありがとう。


高宮 大志(たかみやたいし)
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