結婚白書Ⅲ 【風花】
1.予感
既婚者と付き合ってみたいなんて 信じられないわ
スリルを味わいたいのかしら
人の持ち物を欲しがる子どもと一緒じゃない
既婚者との恋愛 それは 私の常識の中には存在しない
彼が現れるまでは そう思っていた……
本省から転勤してくる課長達
彼らは 次のステップへ進むため 若いうちに地方勤務を経験する
数年の地方勤務をへて本省へ帰り あとはキャリアの道を進む
毎年 本省と地方勤務の次期赴任地として課長達が転勤してくる
そのたびに 独身の女性職員は色めき立ち 秋波を送る
よそから来る男性がそんなにいいの?
地元にだっていい男はいっぱいいるのに
そろいも揃ってキャーキャー騒がなくてもいいじゃない
私は 彼女たちを冷ややかに見ていた
若いと言っても 課長のほとんどは妻帯者で
たまに独身の課長が赴任しても 彼らには間違いなく
都会に残してきた恋人がいた
今年も 二人の課長が本省から転勤してきた
二人とも 歳は30代前半
仲村課長は 長身でスリムな体に背広が良く似合っている
一見 神経質そうにも見えるが 物腰は穏やかで
私たちにも敬語で話しかけるような人
スマートな語り口調で女の子達に人気がある
結婚が早かったのか 小学3年生と1年生のお嬢さんがいると
教えてくれたのは課長本人
私の課に赴任してきた課長
遠野課長 こちらも長身だが 仲村課長と違って 筋肉質なのが
背広の上からもうかがえた
結婚指輪をしていないため 「独身の課長よ!」と 女性陣を期待させたが
来年小学校に入学する男の子がいると 隣の課の水城さんが教えてくれた
寡黙な人で メガメの奥の目が鋭く 取っつきにくい感じがするが
黙々と仕事をこなす姿が印象的だった
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