結婚白書Ⅲ 【風花】
「その牧師様 お子さんが7人もいらっしゃるのよ
4人が自分のお子さんで あとは養子なの
私たちにも子供をどんどん育てなさいっておっしゃったけど
祐樹一人に手を焼いてるわ
朋代さんも今にわかるわよ 子育てって楽しいけれど体力勝負
早く生んだ方がいいわよ」
「そうみたいですね でも 私……それは……」
「それはって どういうことかしら? 朋代さん 子供が好きじゃないの?」
「いえ そんなことありません
だけど いろんなことを考えると子供を欲しいと思えなくなってきて……」
衛さんの顔色が変わった
彼だけではない 蓮見さんも志津子さんも言葉を失い 驚きの顔が私を
見つめている
自分で言ってから とんでもないことを口にしたと後悔が襲ってきた
気まずさだけが この空間を占めていた
「朋代さんがそんな思いをしてるなんて……
遠野君 今までこんな話をしたことはなかったの? ダメじゃない
彼女の話をちゃんと聞いてあげて」
「俺も志津子と同じ意見だ 二人で話し合う必要がありそうだな」
「すまないが 先に部屋に戻るよ」
衛さんは それだけ言うと私を抱き抱えるようにして 椅子から立たせた
レストランから部屋への道のり 無言の時が過ぎる
私の手をギュッと握って 顔は前を向いたままだったが
衛さんの私への強い思いが手から伝わってくる
部屋に入ると 窓際に置かれた椅子に座るよう勧められた
「朋代がそんなことを考えていたなんて 僕は君のどこを見ていたんだろうね
子供を欲しいと思えなくなってきたって わけを話をしてくれないか」
搾り出すような声
くぐもった声は 自分をも責めているように苦しそうだった
「私の勝手な思いかもしれないけれど……」
どこまで自分の気持ちを話せるだろうか これ以上誰も傷つけたくなかった
両親に 兄弟に 彼の家族だった人たちに
辛い思いをさせて成り立った結婚だったのだから