結婚白書Ⅲ 【風花】
24.柔和 (終)
ガーデンシティーと呼ばれるだけあり 街を囲むように美しい公園や庭園が
整備されていた
古い町並みと新しい町並みが上手く共存し 新しいのに どこか懐かしさを
漂わせる
これがメルボルンに入った時の印象だった
「19世紀のイギリスの雰囲気が色濃く残っている街なんだ
歩いて見て回るのもいいもんだぞ」
蓮見にも言われたが 今日はゆっくり散策するつもりだった
朋代が抱えていた思い
私との結婚は 彼女にさまざまなものを背負わせる結果になった
「これ以上傷つきたくなかったの
もうあんな悲しい思いをするのは嫌だから……」
賢吾のために あの子の気持ちが揺れないように
私の気持ちも戸惑わないように
自分の子供は諦めようと思い込んでいたとは
そうすることで朋代自身も傷つかないと……
大きな代償を払って結婚したのは 私だけではなかったのだ
キングスドメイン公園は 日光浴をする人 散歩をする人
思い思いに過ごす姿が そこここに見られる
朋代とゆっくり歩きながら 時々会話を交わし また歩く
繋がれた手だけは離されずにいた
昨日メルボルンに着き 午後から現地のツアーに参加した
セスナで海岸沿いまで飛び ペンギンの繁殖地まで車で移動
毛布に包まり ペンギンが出てくるのを待った
小さな群れが姿を見せると 朋代は無邪気に喜び感激したと話す様子からは
一昨日の泣き濡れた顔は 想像できなかった
今日は メルボルン市内の地図を片手に気ままに歩く
ドメイン公園そばの王立植物園
オーストラリア独自の植物類や ユーカリの種類の多さに驚いた
古い物と新しいものが混在した街並みは
歴史を大事にしながら 常に新しいものに目を向けている積極的な国民性
ゆえだと聞いて納得した
長い時を経た建造物は 古いものだけが持つことを許される特別な色を
放っている
市内には教会も多く 中に足を踏み入れると 重厚な装飾の施された壁や天井
そこに荘厳さが加わり 自然と厳かな気持ちになってくる
どれもこれも 普段の生活では味わえないものばかりだった
二人で感動を共にし 胸の高鳴りを分かち合う
同じ空間にいて 思いを共有する貴重な体験でもあった