結婚白書Ⅲ 【風花】
冬の暖かな日差しの中 私たちは結婚式を挙げた
華美なものは一切なかった
慎ましく 厳かな気持ちが私たちを包む
神や人の前で誓いを立てることに意味があるのだと マーチン牧師は
式の意味を話してくださった
式のあと ティーパーティーの席が設けられていた
蓮見たちがすべての段取りをしてくれていたらしい
「朋代さん 可愛いかったでしょう
遠野君が照れるから 写真が上手く撮れなかったじゃないの」
「本当だよ どんな仕上がりになっても俺の責任じゃないからな!」
「照れるなって言う方が無理だよ」
「そんなこと言わないの 女性にとっては大事なことなんだから
ねぇ朋代さん」
朋代は笑って私たちのやり取りを聞いていた
ここでも彼らにからかわれたが 蓮見たちには感謝している
出席者の前で誓いを立て 気持ちを新たにする
それは 婚姻届を出しただけの結婚に 責任と幸福の重みが
加えられたようだった
ホテルに帰ると 部屋に花束とワインが届いていた
「蓮見さんには 本当にお世話になったわね」
「うん 式を挙げることでけじめがついた気がするよ……
ワイン 飲んでみようか」
グラスにつがれたワイン
口に含むと 淡い苦味と甘さが広がった
「ねぇ覚えてる? 課の歓迎会のあと
衛さんをマンションまで送ったことがあったわね あれが始まりね……」
「そんなことがあったかな 覚えてないよ」
「覚えてないの? 慣れないお酒に酔って 途中でタクシーを降ろされて……
大きな貴方を抱えて帰るの大変だったのよ」
「冗談だよ ちゃんと覚えてるよ 忘れるはずがない」
グラスの半分をあけただけなのに 朋代の頬は薄紅色に染まっていた
彼女の頬を手で触れると 熱が伝わってきた
唇には甘い香りが残り ぽってりと艶やかに光っている
「あのとき いつもは澄ました顔の君が優しく見えた
こんな顔をするんだと忘れられなかった」
「澄ました顔って そんなふうに見えてたの?
あの頃は衛さんだって厳しい顔をしてたわよ」
互いに思い出し 笑いがこぼれた
朋代を抱き寄せると 体はほのかに熱を帯びていた
耳はすでに赤く 唇を寄せるとびくっと体を震わせた
「冷たくて気持ちいい……」
熱い息が吐き出される
絡めた手と 重なった唇に温度差があったが 口づけるほどにそれは
なくなっていった
八日間の旅行で得たもの たくさんの思い出と 貴重な体験
なにより 朋代とさらに寄り添うことができた
一生忘れられない旅になった