結婚白書Ⅲ 【風花】
帰国後 朋代の兄の家を訪ねた
二人目の子供が生まれ 新しい家族に会いに行ったのだった
「この子より 大輝に手がかかって……・赤ちゃん返りしちゃったのよ」
「甘ったれになって困るよ」
夜泣きまで始まって寝不足だと 高志さんが付け加えた
産後の経過はいいと聞いていたが 和音さんの顔には疲れが滲んでいた
赤ちゃんをあやす和音さんの足元に まとわりつく大輝君
”おいで” と手を伸ばすと 大輝君は一度は後ずさりしたが
再度声をかけると おそるおそる歩み寄ってきた
一気に抱き上げて高く持ち上げると 無邪気な声をあげて喜ぶ様子が
愛おしかった
光輝君と名づけられた赤ちゃんは 高志さん夫婦より桐原の義父に
似ているようだ
鼻の形や口元がそっくりだった
和音さんが 光輝君を布団に寝かせると すかさず大輝君が和音さんの
膝に滑り込んだ
「和音さん 休む暇がないわね 夜だってゆっくり寝てないでしょう」
「そんなことないわよ それより大輝をかまってやれなくて」
「だいちゃん 我慢してるんだ 偉いね」
朋代の語り掛けに 二歳をすぎたばかりの大輝君がにっこりと笑った
「光輝が生まれてから 体が二つ欲しいと思うほど忙しくて大変だけど
気持ちは充実してるのよ 可愛いと思える子供が二人になったんだもの
すぐにでも もう一人欲しいくらい」
「次は女の子にしてくれよ 頼む」
高志さんの冗談とも思えぬ発言に 和音さんは笑っていた
朋代が そんなに上手くいかないわよと言いながら 高志さんを呆れた顔で
見ている
「赤ちゃんの寝顔って見飽きないわね……
だいちゃんが生まれたときもそうだった
一日に何度も何度も覗きにきてたもの 目を開けたらまた可愛くてね」
布団に寝かされた光輝君の寝顔を朋代が覗き込む
慈愛に満ちた顔だった
光輝君に向けられていた朋代の顔が ゆっくりまわされて私を見た
「私たちも あやかれるといいわね」
「……うん……」
朋代があまりにも自然に話したため 一瞬聞き違えたのかと思った
突然のことに上手く言葉が出ない
私の驚きを察知したのか 朋代は微笑んだだけだった