結婚白書Ⅲ 【風花】
車窓から見えるのは 点在する家の明かりだけだった
朋代は電車に乗ってから ずっと窓の外を眺めている
遅い時刻の特急電車は 乗客も少なく車内は静かだった
兄夫婦の家で聞いた言葉の真意
”私たちも あやかれるといいわね”
彼女の顔をさりげなく覗うが 肘掛にひじを乗せてほおづえをつく姿からは
何も読み取れなかった
しばらくしてからだった ほおづえをはずし 私の方を見ると前触れもなく
話し出した
「牧師さまがおっしゃったことと 同じ事を和音さん言ってたでしょう
大輝を膝に抱く和音さんを見て あぁ こういうことだったんだって
実感したの」
「愛情は子供の数だけ増えるって あの話だね」
「そう……和音さん 疲れた顔をしながらも 大輝を抱いている顔が眩しかった
兄もわがままを言う大輝を叱りながら 最後はちゃんと抱きしめて……」
「二人とも意識してそうしてるのもあるだろうが
子供の顔を見たら可愛さの方が増すんだろうね」
頷いて また窓の外に視線を戻した
独り言のように こぼれる言葉
「私も同じ思いを感じたいなぁ あのときそう思ったの
子供に無条件に愛情を注いでみたいって……
子供がいたら 嬉しいことや楽しいことが増えるわね」
「そうだよ きっと楽しいことがふえるよ」
朋代の手を握ると ぎゅっと握り返してきた
「兄貴のところより先に女の子を産んだら 悔しがるでしょうね」
「そう上手くはいかないよ さっき自分でも言ったじゃないか」
肩をすくめて ”そうだったわね” と いたずらな顔が返ってきた
この日 私たちは 新しい一歩を踏み出したのかもしれない