結婚白書Ⅲ 【風花】
朋代の心もほぐれ 子供を望む気持ちになっていた
そうなると皮肉なもので 待ちわびても なかなか朗報に恵まれずにいた
それでも お互いの気持ちは焦ることなく 穏やかな日常を過ごしていた
二人だからできること 二人にしか出来ないことはいっぱいあった
急に思い立って遠出をしたり 食事に行ったり 映画を観たり
結婚前 誰もが経験することを 私たちは何一つしていなかった
「結婚前にやり残した事をやってるみたい
子供がいたらこんなことできないわね」
朋代はそう考えることで 楽しむことを覚えたようだ
官舎の付き合いも楽しそうで 親しい友人も出来たらしい
この頃は部屋の模様替えに夢中になっている
興味は部屋の中だけにとどまらず 玄関やベランダにまで及んでいた
いつの間にか 花の寄せ植えがベランダに増えていった
「花が増えたね 朋代がこんなことが得意だったとは意外だったよ
父さんの影響もあるのかな」
「そうかもね でも土いじりをするなんて自分でも驚いてるの」
笑いながら鉢に水を与えている
心の底では 子供に恵まれないことを気にしているだろうに 決して口には
しなかった
初めての部署でもあり 私も赴任当初は仕事の特殊さに苦労したが
各務君をはじめ優秀な職員に恵まれ 充実した日々を送っていた
忙しく仕事をこなし家に帰ると おかえりなさいの言葉とともに
迎えてくれる妻がいる
食事をしながら 今日一日の出来事を互いに話す
朋代が私の仕事を熟知しているため 彼女に仕事の話をすることもあった
同僚や部下に話せないことも 朋代には話せた
彼女が意見することはなく 私の話を聞き 仕事の喜びや苦しみを
共有してくれた
大きな懸案を抱えて神経質になっているときなど それには触れず
なんでもない顔で接してくれた
彼女との結婚生活は 私に安らぎをもたらした