結婚白書Ⅲ 【風花】


二人だけの生活も二年を過ぎようとしていた

私たちに また転勤の季節が近づいていた





「背広を見慣れているのに 礼服は引き締まって見えるわね」



鏡の前で シルバータイを締める私の後ろに立って 朋代の弾んだ声



「このズボン少しきついな 前に履いてたのを出してくれないか」


「あら 太ったの?」


「太ったんじゃないよ 元に戻っただけだよ」


「それって 太ったってことよね」



ふふ……と笑いながら クローゼットから もう一着の礼服を出してきた

結婚前の苦しい時期に体重を落とし 結婚後少しは増えた体重が 

数ヶ月前 禁煙したことですっかり元にもどっていた



「各務さん 良かったわね ご両親もお喜びでしょう」


「そうらしいよ 佐川さんにやめられるのは 

こっちとしては困るが仕方ないね」



今日は各務君の結婚式だった

同じ課の臨時職員の 佐川麻子さんと交際していたが ようやくこの日を

迎えたのだった



「麻子さん 何度かお会いしたけれど 気さくな方で各務さんとお似合いね」


「うん 二人の会話のテンポが絶妙でね ここでは楽しく仕事が出来たよ」



転勤は致し方ない 人との別れは避けられないこととはいえ 毎回寂しさを伴う



  
 

二週間後 各務君が麻子さんと挨拶に来てくれた



「先日はお忙しいところ ありがとうございました」



各務君と麻子さんが 二人ならんで頭を下げる



「あらためて おめでとう 楽しい旅行だったでしょう」


「おかげさまで天気にも恵まれて 

また行きたいねと話ながら帰ってきました」



口々に新婚旅行の楽しかった出来事を話してくれる

職場でもそうだったが 二人の会話は小気味よく 

テンポのある話しぶりは相変わらずだった



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