結婚白書Ⅲ 【風花】


朋代は二人の挨拶を受けてから立ち上がり お茶を運んで来た

その様子をじっと見ていた麻子さんが……



「……もしかして」



朋代がおっとりと頷く



「わぁ おめでとうございます あの……さわらせてもらってもいいですか」



朋代が ”どうぞ” と ふっくらと微笑んだ

麻子さんが 朋代の控えめにふくらんだ腹部を愛おしそうに撫でる



「何ヶ月ですか?」


「5ヶ月よ もうすぐ6ヶ月目に入るところ」


「そうだったんですか……こちらまで幸せな気分になりますね」


「うふふ 麻子さんもすぐよ」



やり取りを聞いていた各務君が 素っ頓狂な声を上げた



「そういうことだったんですか 課長 可笑しいと思ったんですよ 

水臭いじゃないですか

急に禁煙するし 夕方はそそくさと帰るし 付き合い悪いなって 

みんなと話してたんですよ」 


「うん なんとなく言いにくくてね」 


「すみません 私の体調が悪くて早く帰ってきてもらっていたので……」  


「いえ そんな……余計なこと言っちゃったな すみません」



各務君が決まり悪そうにしているのを見て 麻子さんが話をつないだ



「課長 お優しいですね 体調の悪い奥様を気遣うなんて さすがだわ

それで 体調は もう大丈夫なんですか?」



”えぇ ” と 笑顔で答える朋代の姿に 各務君もほっとしたようだった



「僕らの仲人だって 課長にお願いしようと思ってたのに 

ウチの親が どうしても仲人のいる結婚式をしてくれと頼むから

そしたら 遠野課長 『絶対引き受けられない それは無理だ』 って 

そりゃあ強行に断って おかげで局長が仲人ですよ」


「あの時は本当に私たちには荷が重いと思ったんだ 

それに朋代がこうだと無理だからね

だけど局長の仲人姿は 堂に入ったものだったじゃないか」



各務君からため息が漏れた



「そうですよ出来すぎです まさか局長 詩吟が趣味だったなんて 

自慢の喉を朗々と披露してくださって ホント参りました」



話は結婚式の余興の話題に移り 楽しいひと時が過ぎていった




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