結婚白書Ⅲ 【風花】


「食事の時間に寝てくれるなんて めったにないわね」


「昼寝は?」


「今日は少ししか寝てないの だから余計に夕方ぐずったのね」



久しぶりにゆっくり食事ができると 朋代は嬉しそうに箸をはこんでいる

夫婦の会話も子供中心になっていた

だが 日一日と めざましく変化する子供の様子を聞くのは楽しかった



「昼休み 東京の家から電話があったよ 会いたいって」



ベビーベッドに目を向けた

風呂上り 母乳を飲む途中で寝てしまい そのまま夜の眠りに入ったようだ

すぅすぅと ささやくような寝息だけが聞こえてくる



「お義父さんたちも帰っていらっしゃるんでしょう

お義姉さんたちにもお会いしたいし お休みに入ったら行きましょうよ」


「うん そろそろ賢吾にも会わせようかと考えてるんだが……」



朋代の顔を覗う

少し驚いた表情をしたが すぐに笑みを浮かべた



「そうね……小さい頃の方がいいかも」


「姉も同じ事を言ってたよ」


「大丈夫 賢吾君なら ちゃんと受け入れてくれると思うわ

だけど 賢吾君のお母さんには伝えなくていいの?」



朋代は賢吾に会ったことがある

結婚して一年ほどたった頃だったか 姉の家で引き合わせた

その時の賢吾は とりたてて驚いた様子もなく 朋代を私の知り合いだと

紹介すると 挨拶をし 姉たちが呼ぶように ”朋代さん” と呼び始めた

姉の家であったことを どの程度 母親に話しているのかわからないが

子供が生まれたことは 私の口から小夜子に伝えようと思っていた



「彼女にも会って話をしてくるよ」


「えぇ……わかったわ……」



寝た子を起こさないように 朋代は静かに片づけを始めた

賢吾のために 私のために 自分の子供をあきらめようと言っていた朋代

彼女の落ち着いた答えに安心したが そうなると 本当に賢吾が大丈夫だろうか

今頃になって 私の方が賢吾の反応を案じている

起きる気配のない子供の顔を眺めながら 二人の子供が仲良く打ち解けて

くれたらと願わずにはいられなかった




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