結婚白書Ⅲ 【風花】
いつもは姉が賢吾を連れて来てくれるのだが 今回は私も一緒だった
息子に会う楽しみと 別れた妻との再会の気の重さの両方を抱え
待ち合わせの場所へ向かった
三ヶ月ぶりに会った賢吾は 私の姿を見つけると飛びついてきて
久しぶりに会う小夜子は 私に静かな笑みを見せてくれた
「少し太ったかしら でも前は痩せすぎだったもの
今くらいがちょうど良いわね」
「あぁ……仕事 順調らしいね 本を出したって すごいじゃないか」
「おかげさまで やっと形になったの 先生やスタッフのお陰よ」
賢吾を姉に預け先に帰し 話をしたいと言う私を小夜子は食事に誘った
久しぶりに差し向かいでとる食事だったが 夫婦だったときも今も
話が弾むということはなく賢吾の学校の様子を聞き
そのあと話題に欠いたため彼女の仕事に触れると
料理の本だからそれほど売れるわけではないと言いながら
次の出版も決まっていると嬉しそうな顔だった
しばらく互いの仕事について話をし 子どもが生まれたことを
いつ切り出そうかと考えていると
小夜子の方が先に口を開いたが 声のトーンをさげ 視線をはずして
話し出した
「貴方と別れてから がむしゃらに仕事を頑張ったわ
あのまま生活を続けていたら 私たち どちらも不幸だったわね」
「……いまさら言っても結果論でしかないと思うが……
あの状態が続くようなら そうだったかもしれない」
「地方勤務なんて2・3年だと思ってたの
ねぇ何年になるの 5・6年は経ってるかしら」
「5年になる もう1年か2年今の所にいて
それから本省に戻ることになるだろう」
「そう……あの時 貴方について行けば良かったのかも
でもね そうしたらそうしたで 私 きっと不満が噴出したと思うの
仕事が面白くなっていた頃だったもの
貴方に単身赴任してもらって 仕事のために賢吾を母に預けて……
私は充実してたの とっても……
だから離婚を切り出されたときは 本当にびっくりして
こんなに上手くいってるのにどうしてって……」
「もういいじゃないか」
私の奥底にしまい込んだ罪悪感がうごめいた
確かに当時 彼女の身勝手に腹を立てていたが 朋代の存在を隠したままで
あったこと
それは私の狡さだったのではないか
ずっとそう思いながら ここまできてしまったのだから