結婚白書Ⅲ 【風花】


遠野さんとの結婚……望まないわけではない

でも 今の私には贅沢な望み

彼との生活を望めば たくさんの人を犠牲にして傷つけて

そして 自分も……

そんなこと わかりきっている


今のままでいい

結婚だけが幸せになる手段ではないのだから

今のままで




「ごめんなさい 言い過ぎたわ 辛いのは朋ちゃんなのにね

でも このままじゃいけないわね お義母さん達には どう話すつもりなの?」


「それが……」



先日 マンションで鉢合わせしたことを話した



「お義母さんの顔 見てみたかったわぁ」



うふふ と和音さんが笑う



「遠野さん 素敵だもの」


「そう思うでしょう?」


「えぇ 思うわ……ねぇ 前から聞いてみたかったことだけど

朋ちゃんは遠野さんのどこに惹かれたの?

遠野さん 外見ももちろん素敵だけど そればかりじゃないでしょう?

朋ちゃんって 何でも冷めた目で見るのに 遠野さんに関しては

そうじゃないわよね」


「うーん どこだろう そんなこと考えたことなかったわ

真面目なところかな でも それだけじゃない 

いつの間にか気持ちが向いてたの」


「そう……誰かを好きになるときって そんなものかもね

朋ちゃん あなた 本当に綺麗になったわね 

誰かを純粋に愛する気持ちのあらわれね」




和音さんの問いに 遠野さんへの強い想いを確認した

家族や友人 みんなに反対されても この想いだけは貫き通したい 

決してあきらめない そう決めた


今まで受身の恋愛しかしてこなかった

いつも覚めた目で男性を見ていた

そんな私にとって遠野さんは 初めて自分から求めた相手だった

大きな声で「この人が好きです」と言えない 私の恋


父が写した ゆうすげの花が目に入った

朝もやの中で ひっそりと咲くさまが 自分と同じに見えた

私の恋は ゆうすげの花と同じ……人知れず 秘めたまま


『夕暮れ時になると咲き続ける 健気な花だよ』


父の言葉が思い出され 胸が締め付けられた




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